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TOURS

【NEW】グラストンベリーつれづれ
サマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアム:乙女座

「The Somerset Rural Life Museum」
※「The Somerset Rural Life Museum」については、検索してみてください。

 2016年の8月に夫と二人、ここグラストンベリーに地に移ってきて、月日は飛ぶように過ぎていきます。グラストンベリーに引っ越して感じたことを、アストロロジーを交えながら少しずつ綴っていきたいと思う次第です。

 グラストンベリーには英国最古の修道院があり、名だたる巡礼の地としてスペイン、フランス、ドイツから多くの修学旅行生が訪れます。台所の窓から観光バスを眺めるのは楽しいものです。
そして日本人、特に女性2、3人連れの旅行者もよく目にします。 鉄道が周囲60キロ通っていない陸の孤島のような小さな村に何を求めてくるのか。私なりに考えてみますと、高度経済成長で日本が失ってしまった自然に対する畏敬の念が、この土地にはまだ残っているように感じるのです。
「時は金なり」と言いますが、金額や数値で表せない豊かさを教えてくれる何かが、グラストンベリーの丘や草原にあるように思います。

サマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアム全景

サマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアム全景

 ところで。グラストンベリーと言うと、有名な「トールの丘」(TOR)、そしてオーラソーマ発祥の「聖杯の泉」(The Chalice Well)には、みなさんこぞって行かれるのですが、案外知られていないのが、サマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアム。(the Somerset Rural Life Museum)

 「グラストンベリーつれづれ」の初回は、このサマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアムから始めることにします。
日本は都道府県で地域を分けますが、イギリスはカウンテイーで分けられます。
このグラストンベリーがあるのは、サマーセット(Somerset)というカウンテイー。
そしてルーラル(rural)は「田舎の」という意味です。というわけで、サマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアムはこの地方の19世紀半ばから20世紀初頭にかけての、田舎の暮らしぶりが再現された博物館なのです。

 巷でグラストンベリーは「パワースポット」として知られているようです。が、実は私は町のハイ・ストリートを歩くと、サイキックだの前世リーデイングだの、黒や紫の商魂たくましい看板の毒気にあてられたようで疲れることがあるのです。そんな時はこのミュージアムに行きます。

 正面入り口を入って、左側の壁に書かれた言葉。
「サマーセットの人間は率直で正直者で親切だ。しかし垢抜けず無骨者だ。」この一節に、めんめんと引き継がれる土地柄、気質がうかがえます。

 まずは1階、20世紀初頭の台所。貯蔵室には小麦粉やスープ・ストックの感が並び、壁の片隅にはキジがかけられています。狩りの獲物は大切な夕べの糧だったのですね。質素ながらも豊かな食卓の様子がしのばれます。

ファーム・ハウス・ギャラリー

ファーム・ハウス・ギャラリー

 農業がこの地の主な産業で、農耕具が並ぶ2階のファーム・ハウス・ギャラリー。
農耕に使うスキやカマが並び、屋根ぶき職人、鍛冶屋の工具も展示されています。全て貴重な職人技。よく「手に職をつける。」と言いますが、技能を磨くことが人生の結実と社会の繁栄の原点であったと私は考えます。

穀物倉庫アビー・バーン

穀物倉庫アビー・バーン

 ギャラリーを出て、中庭を渡ると大きな穀物倉庫(Abbey Barn)へ。この倉庫は14世紀に修道院(Glastonbury Abbey)の所有物として建てられたそうです。この一帯、修道院の領地だったわけですね。

穀物倉庫アビー・バーン、昔の姿

穀物倉庫アビー・バーン、昔の姿

 16世紀に入り修道院はヘンリー 8世によって焼き払われ、その後この倉庫は地元の公爵に引き継がれ400年間、穀物倉庫としての役目を果たします。
東西南北、倉庫の扉の上に、キリストの4人の使徒(Four Evangelists)、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの彫刻が刻まれ、収穫と信仰の深いつながりをひしひしと感じます。

穀物倉庫アビー・バーンの中

穀物倉庫アビー・バーンの中

 さて。このミュージアムに乙女座を当てはめた理由。
太陽が乙女座の空間を運行する8月下旬から9月下旬は収穫たけなわの時期。我が家の前も干し草を乗せた巨大なトラックが走ります。
かつて収穫期には老若男女、懸命に刈り入れに励んだそうです。豊かな収穫はその地方の繁栄に欠かせないものですが、この収穫ばかりは神だのみ。 どんなに良い種をまいて、丹精込めて育てても、大雨日照りの災害が来ると収穫は台無しになってしまいます。
「どうぞ収穫をお守りください。」と謙虚な願いを神に祈ったのでは、と私なりに想像してみます。

 アストロロジーの本を見ますと、「乙女座(太陽が黄道12宮の乙女座の空間を運行する8月24日から9月23日の間に生まれた人の意)は勤勉で几帳面。細かい点によく気がついて労力をいとわない。」そんなことが書かれていますが、これは収穫期に欠かせない要素です。ここで労働の意味を今一度、考えてみましょう。

 現代社会は経済至上主義におおわれ、テクノロジーが進み、ましてや都会住まいは日の出日の入りを拝むこともなく、自然の営みと切り離された状態です。労働は現金を得るためのもので、現金で今月の、そして将来の衣食住の安全を確保する。その現金を得るために体を酷使して職場に足を運ぶ。しんどい。消耗する。辛い。

 これは本来の乙女座の意図する労働とは、大きくかけ離れているように感じます。
労働の根源は喜びで、天からの授かりものを受け取るために、今日の細かい仕事をおろそかにせず、夕日を眺めてくつろいで、明日の心配はしない。
明日の心配、つまり台風や日照りの心配ばかりしていますと、収穫に至るプロセスは胃潰瘍の原因以外の何ものでもなくなってしまいます。
今日できることをやって後は神にゆだねる姿勢が、乙女座の究極の学びの課題と考えます。

 ところで、リンゴがたわわに実るグラストンベリーは別名「アイル・オブ・アヴァロン」(Isle of Avalon)と言われます。 古代英語で「リンゴの島」の意味。 そしてリンゴは不死のシンボルだったそうです。

リンゴ果樹園

リンゴ果樹園

 このミュージアムの穀物倉庫の横にも、リンゴが豊かに実る果樹園があります。
先日、この果樹園で8才の男の子に出会いました。 二人で果樹園の中の小さな納屋に入って、私が「ここにベッドを置いて夜、眠ったら気持ちいいだろうねえ。」と言いますと、
その男の子いわく。「ボクは床に毛布を敷いて寝るんだ。そして音楽を聴くんだ。 牛も歌って、羊も歌って、鳥も歌って、みーんなで歌を歌う。ボクはその音楽を聴きながら星を見て寝るんだよ。」
そして急に話をやめて、人の顔をしげしげと見て「あんた、いい人だね。」そうかしら。

 神の恩寵は起こる時に起こる、起こらない時は起こらない、と言いますが、乙女座の清らかで慎ましい願いが天に届いたら、こういう形で神の恩寵が起こるのだと、ふと思いました。そしてその時、天の祝福が降りてきた思いがしました。
親に教えられたわけでなく、学校で丸暗記したわけでなく、この土地の自然と牛や羊の群れが、8才の男の子にこのような思索的な言葉を語らせる。

 本来、乙女座はスーパーマンでもヒーローでもありません。自分の持ち場をおろそかにせず、今日一日の務めを果たして、小さくても何かに役立つ存在である実感が持てる。自然が定める収穫に感謝して、夜空を見てきれいだと思うことができる。そして労働が喜びだと実感できるような天職を見つける。
これは多くの人にとって、特に乙女座にとっては最大の幸せだと考えます。

 グラストンベリーにおみえになる時は、ぜひサマーセット・ルーラル・ライフ・ミュージアムをおたずねください。
聖杯の泉の入り口を背に、右に歩くこと約5分、左角にあります。月曜休館です。