占星学 ユキコ・ハーウッド[Yukiko Harwood] 星の架け橋

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TOURS

第4話 チャリテイーショップ:乙女座の水星

 私が住むサセックス州に限らず、イギリスにはチャリテイーショップなる店が全国に五万とあり。町内の人が持ち寄った不用品中古品を売り、その収益を全額寄付に当てるといった慈善団体です。売上金の行き先は癌や心臓病の研究、高齢者援助、動物愛護など団体によって違います。町の通りを見渡すとその看板の多いこと、多いこと。

チャリティーショップのウィンドー

チャリティーショップのウィンドー。

 たかが古着不用品とあなどるなかれ。洋服雑貨専門、家具,子供服、本DVDといった具合に分かれ、表のウインドーもブテイックと見紛うばかりの華やかさ。古着古本の寄せ集めで、よくもここまで仕上げたものだとあっけにとられますね。

 毎回このお話に登場するクリスおじさんが言うには、一昔前のチャリテイーショップでは町内のオバアチャンが集まって古着を段ボール箱の中から出したり入れたり。よほどお金に困った人が敷居をまたぐところだった、と。

 しかしこれではダメだと数年前にテコ入れが入りイメージ一掃。デイスプレイ専門家の指導により各ウインドーはブテイックのように。いまやチャリテイーショップはクリスマスやお誕生日のプレゼントを格安で買いに行く場所に変身。

小物を売るチャリティーショップ

小物を売るチャリティーショップ。ろうそく立て、額縁などの小物は"ブリッカブラック"(仏語bric-a-brac)と言われています。

 かく言う私も実は、本CD専門のチャリテイーショップで、週2日ボランテイアで働いているのです。ちなみに店長を除き、スタッフは全員ボランテイアで構成されています。

 どういう人がボランテイアに来るかと言いますと、まず退職した人たち。地元の学生や自由業者。そしてヨーロッパ諸国からのホームステイの高校生。なんでもEU教育プロジェクトといった制度があり、イタリアやフランスの高校生が1ケ月間、イギリスでホームステイをしながら労働体験を得る、というカリキュラムがあるそうで入れかわり立ちかわりやって来ます。

 私達ボランテイアスタッフの仕事は、まず売り物になる本とならない本の、ふるいわけから始まります。本の中の書き込みや落書き、ページの黄ばみ、落丁、表紙の破れ、コーヒーなどのシミ、こういった点がふるいわけの目安になります。

 ものによっては情報が十分に新しいかどうかも問われます。例えばパリ・ホテルガイド1998年出版、アウトですね。こうしてふるいにかけていくと残念ながら4割強がお払い箱。つまり新品同様のものだけが残されます。

 但しどんなにボロボロでも、お宝骨董本は別です。100年前に出版されたステイーブンソンの「宝島」など。

チャリティーショップの本屋さん

チャリティーショップの本屋さん。お洒落なショーウィンドーでしょ。

 この選別で残った本だけ、店の基準に従って値づけ作業へ。ちなみに児童書の最低価格は50ペンスから。(現在のレートで約65円)そして倉庫の棚にジャンル別に積み上げていきます。純文学、フイクション、スリラー、SF、児童書、アート美術書、精神世界、宗教、歴史政治、軍事、自然科学、園芸、料理、トラベル、などなど。

 さらに売れ具合を見ながら店の本棚へと次々捕充していきます。

 言葉もままならない私は最初の3ケ月、地下の倉庫をウロウロするばかりでしたが、本の仕分け作業、乙女座の私には性に合うことを発見。倉庫に山積みの寄付本をかきまわして、ハリーポッター全巻、ナルニア全巻揃ったときは「ビンゴー!」と叫びたくなりますね。

 店のクッキングの棚にイギリスの伝統料理をはじめ、フランス、イタリア、スペイン、メキシコ、中華、インド、ベトナム、各国料理の本がきれいに並んだときの満足感。美術書の棚にルネッサンス期から17世紀オランダ、印象派、プレラファエロから近代シュールレアリズムまで一通り順番にうまったときの感激もひとしお。

 というわけで今回は乙女座の支配星・水星について考えたいと思います。前回は双子座の水星のお話をしました。双子座も乙女座も支配星は同じく水星。ところがその働き方は少し違いますね。

 水星はギリシア神話のヘルメス。(ローマ神話ではマーキュリー)マインド・知性の成長や働きを司ります。この点においては双子座も乙女座も変わりません。

 双子座・水星のあくなき好奇心は知識情報収集に向けられます。つまり知識情報を得ることそのものが喜びと言えるのです。この情報収集が“私なりの視点、自我”を築く大事な土台になることは、前回お話しました。対して乙女座の水星は寄せ集めた知識情報を元に技能習得、この世で役立つものにすることが目的。

洋服を売るチャリティーショップ

洋服を売るチャリティーショップ。

 ここで乙女座は土の星座であることに注目。風の星座・双子座が“思考・マインドの働き”を司る一方、土の星座は目で見る、耳で聞こえる、手で触る、舌で味わうことのできる“五感の世界”を表します。言い換えると、この現実の世界で形あるものに仕上げたいというのが土の星座の願うところ。水星のマインドの働きは、この乙女座ではいかに実践的で目に見えて役立つものに仕上げるか、という所に振り向けられます。ひいては自分なりの人生観を持った一人の人間が、社会に役立つ何者かになるべく磨きをかける、といったことが乙女座・水星のテーマです。

 話はチャリテイーショップに戻ります。家の本棚に鎮座して手付かずの本。子供が大きくなっていらなくなった絵本。捨てるに忍びない。そうだ、チャリテイーショップに持っていこう。持ち込まれた本はそのままではただの膨大な紙の山ですが、それをていねいに仕分けることで一連の意味を持つものに変わっていく。「不思議の国のアリス」の横に「更年期障害」の本は置かないものです、ふつう。

 この本の仕分け作業に、双子座・水星から乙女座・水星へと、さなぎが蝶に変身するような成長プロセスがうかがえます。そしてきれいに仕上がった本棚の中から新品で買えば5千円、6千円するような美術書を3百円、4百円で町内の人が喜んで買っていく。その売り上げは各種寄付金に当てられるわけです。

店頭には古着古本の寄付を呼びかけるポスターが

店頭には古着古本の寄付を呼びかけるポスターが。

 占星学の教科書で乙女座のところを見ると「勤勉、労働、奉仕、健康」といったキーワードが見受けられます。この「奉仕」という言葉がくせものですね。なんだかタダ働きのように受け取られていて、骨折り損のくたびれもうけ。あるいは有閑マダムのおなぐさみ、のように勘違いするむきがあるようですが、そうではない。Volunteerを辞書で引くと「自ら進んで任務につく。志願する。」とあります。イヤなことをイヤイヤ引き受けるのではなく、やりたいからこそ志願します。自分の性や才能に合ったことだから、喜んでできるわけです。たとえタダでもですね。つまり自分に向くからこそ上手にできるようになる。ひいてはそれが世のため人のために役立つものになる。この時点でお金を受け取っても、やはりそれはボランテイアですね。本当の意味での奉仕貢献です。

チャリティーショップ入り口

チャリティーショップ入り口。

 そして自分に合わないことをグズグズダラダラやっていると、それはもうストレスたまりますから健康を害する。乙女座のキーワードの「健康」とは健康オタクのことではなく、ボデイー・マインド・スピリットの統一を図るという意味。スピリットは右に行きたい、と言うのに、マインドがイヤそういうわけにはいかないと左に進み続けると、そのひずみが体の故障となって信号のように知らせてくれるわけです。

 以前、古本倉庫でお昼休みにサンドイッチをかぶりながら「私の人生、ここで働かないと何の意味もないわ。」とため息ついていたボランテイアスタッフがいました。身につまされる話ですが、ギリシア神話のヘルメスは年を取らない永遠の少年であると同時に、死者の魂を冥界での審判に差し向ける水先案内人でもあります。この審判とは生前の意義を問うもの。そして人生の意義とは人から与えられるものではなく、自分で創り出すもの。

 誰しも息を引き取る前、「私の一生、無芸大食。何の意味もなく誰の役にも立たなかった。」とボヤきたくはないもの。高名な何者かとして名を残さなくてもよい。ささやかなことでよいのです。適材適所という言葉があるように、自分の身を適所に置くことができたと思える人生は幸せです。なぜなら納得がいくからです。

 またお会いしましょう。